【コメ】失われた“農村の活力” 政府が転換検討も『減反』に翻弄された生産者は、今何を思うのか…?岐路に立つ日本のコメ政策の“在り方”は
特集は岐路に立つ日本のコメ政策です。
政府は長年コメの生産を抑制する政策を続けてきましたが、米不足と高騰を受け一転、増産も含めた見直しを始めました。
現場はどう感じているのか、これからのコメ政策のあり方を考えます。
田舎館村で家族3代にわたってコメづくりをしている工藤秀範さんです。
農地は30ヘクタールまで拡大しました。
★農事組合法人アグリ田舎館 工藤秀範代表理事
「ここは大豆ですね。『おおすず』という種類の大豆を植えています」
「この組織を立ち上げて農業を始めた頃から、コメは余っているからいらないということで『減反』『減反』と言ってましたので」
就農したのは2008年。
当時は12ヘクタールで8割がコメ、転作作物の大豆は2割ほどでした。
その後、減反に協力し、安いコメより補助金が入る大豆での安定収入をめざし、今では大豆の方が多くなりました。
コメ不足や高騰が、いつか来るかもしれないと感じていたといいます。
★農事組合法人アグリ田舎館 工藤秀範代表理事
「一般の商品と同じで流通に任せてしまうと、どうしてもこういう事態は出てくるだろうなという思いは以前からあった」
「主食というコメをいつのまにか国が管理しなくなったというところがあって今の事態になっていると思う」
かつてコメの流通は国が厳格に管理していました。
しかし、財政負担やヤミ米が増えたことなどから1969年、政府を通さずに売ることを認める自主流通米制度を導入。
その後、生産調整…いわゆる「減反」が始まりました。
食生活の変化などで需要が減った分生産を抑え、価格を保とうとしたのです。
しかし、コメの価格は下がり続けました。
「コメはもうからない…」
跡継ぎが確保できず耕作放棄地が増えました。
生産調整は2018年に廃止されましたが、転作への補助金は続き、事実上の減反が続いていると専門家は指摘します。
★弘前大学農学生命科学部 石塚哉史教授
「結局、減反政策は50年以上続けてますからね。50年ずっと減らしていったら純粋になくなりますよね」
「生産量を減らしていってしまうというのはコメ産業を弱体化させることになりますし、異常時に対応できるような柔軟性のない政策にもってきてしまった。ギリギリの生産量、消費量になってしまった」
2023年の猛暑でコメの生産量が落ち込みました。
そして去年、スーパーからコメが消え、価格は高騰。
消費者から悲鳴が上がりました。
★買い物客
「いきなりこの高さは衝撃なんですけれど」
「1回上がったものは下がらないですよね」
コメ農家が農協などから受け取る手取りは、2年前の倍に跳ね上がりました。
ただ自身もコメをつくる青森農協の鹿内組合長は、消費者のコメ離れの懸念もあり、望む状況ではないと話します。
★JA青森 鹿内克之組合長
「生産者は燃油、農機、生産資材が非常に高くなって、肥料とかは2倍から3倍になっている生産コストを確保したいんですが」
「だからといってここまで高いのは求めていないんですよ」
「生産者と消費者が納得できるような価格を維持できたらなと」
青森県は耕地面積の半分を田んぼが占め、農家の6割がコメの生産に関わっています。
青森のコメ作りは冷害対策や収量を求める時代から、おいしいコメの追求に変わりました。
ただ、変わらず続く減反政策の間に農村の活力が失われ、農家の数はここ30年近くで半分に減りました。
60歳以上が7割を超えています。
★弘前大学農学生命科学部 石塚哉史教授
「若い人材が産業に入ってくるような政策を考えないといけません。そうしなければ現在の農地でさえも維持できない。特に青森県は農林水産業に対するウエイトが他県と比べて多いわけですから、そこを維持しないと地域全体の空洞化弱体化につながってしまう」
五所川原市の笠井実さんは1967年から大規模経営を始め、全国でもいち早く機械化を取り入れた先駆者です。
88歳になり一線を退きましたが、こう訴え続けています。
★笠井実さん
「農業政策は農家の政策ではなく国民の『食糧政策』としてちゃんと確立しないといけない」
「国民のための食糧を確保するためにがんばっているわけだから、所得補償っていうのは制度として設けるべきだと思う」
高騰を受け、政府は備蓄米を放出。
価格の関与にも踏み切りましたが、値下がりはなお見通せません。
政府は主食用米の増産も含めた水田政策の転換の検討を始めました。
宮下知事は短期的には「増産が必要」とした上で次のように述べました。
★宮下知事
「コメということに関しては圧倒的に需給バランスをちゃんと把握してほしい」
「生産から消費者にわたるまでの流れていく全体像がはっきり見えるようにしてほしい」
農家が再生産できる所得を確保し、消費者も納得できる価格を維持するために、コメ政策は先を見据えた抜本的な改革が求められています。